「はい、ママに貰って来た」
「ありがとー!」

友人達が、私の席の隣でわいわいと盛り上がっている。
私は次の時間当てられるのを忘れていたため、英語の予習で必死だ。
誰か手伝ってくれてもいいのに。
女の友情は薄情だ。

「あー、本当にショウ君かっこいいー!切っていいんだよね?」
「そのまま持っていっていいよ」
「わあ、ありがとう!」

友人の好きなアイドルが、最近番宣で色々な雑誌に特集を組まれている。
全部を集めるのはさすがに学生では懐が痛いところ、協力してもらっているようだ。

「他、誰が載ってるのかなー」
「これあんまり見ないしなあ」
「これおばちゃんが見る奴でしょ」
「二十代ぐらい向けじゃないの?」

4人ほどで集まって、パラパラと雑誌をめくっている。
ああ、気になるな、私も話に入りたい。
でも、英語の予習しないと待っているのは地獄だ。

「あ、この人かっこいい」
「え、あ、本当だ!」
「え、どれ、うーん、私はあんまり」
「まあ、ちょっとたくましすぎ?」
「えー、かっこいいでしょ!超スタイルいいじゃん!」
「確かにスタイルいいね」

本当に、気になるなあ。
こんな風に結局聞き耳立ててたら意味がない気もする。
他の場所に行こうかな。
でも、皆から離れるのも寂しい。

「誰なの、これ、俳優さん?」
「えーと、アーティストだって」
「アーティストって?歌手?」
「うーんと、絵とか描いてる人みたいだよ」
「絵?アーティストって歌手のことじゃないの?」
「知らないよ。絵とか彫刻とか作ってんだって」
「えー、芸術家さんか」

芸術家のイケメンか。
なんか長髪でぶっとんでいる人のイメージだ。
でも、イケメンなんだよね。
後で見せてもらおう。

「えっと、み、MINEYAだって。本名は、池峰矢。アメリカを中心として人気が出て、今はヨーロッパでも浸透しつつある、えっと、しんしん、きえいの、アーティストだって!」

峰矢。
池。
池峰矢。
えーと、なんか聞いたことあるな。
ていうか駄目だ、集中しないと。
えーと、ここは、Thatが入るから。

「35歳、か。おじさんじゃん」
「いやいや、あんたの好きなトール君も33歳だから」
「嘘!」

35歳か。
お兄ちゃんとそう変わらないな。
アイドルって実は結構年いってるんだよね。
じゃない。
集中集中。

「でも、かっこいいね。海外で活躍かあ」
「ね、こんな人いたんだあ。知らなかった」

友人達はまだわいわいと雑誌をめくって話している。
あああ、気になる。

「えーと、なになに、うわー、すっごい女好きみたいだよ。峰矢さんは数々の女性と浮名を流していますが、現在の恋人はどんな方なのですか。ご結婚は考えてますか、って、うわ、過去にアイドルとか女優とか、海外のモデルとか付き合ってるみたい」
「すげー。まあ、モテるよね。海外の方がモテそうな顔してる」
「確かに確かに」

ていうか芸術家に聞く質問なのか、それは。
まあ、女性誌だから仕方ないか。

「女性の美はインスピレーションの源です。生きた芸術を愛するのは当然のことです、てうわ、すげ、サム」
「うわああ」
「私が一人占めしていい訳がないだってー」
「うわああ、痛い!でもイケメンだから許せるー!」

うん、確かに寒いし、痛いな。
どんな顔して言ってるんだ、その芸術家。
まあ、イケメンの芸術家が言うなら許せるか。

「あ、でもなんかその人、男の恋人がいるんだって」
「はあ!?」
「なにそれ!」
「ネットに書いてある」

さすがに衝撃的な発言が出てきて、顔を上げる。
どうやら調べたようで、友人の一人がケータイを弄っている。

「女性関係は派手だけど、学生時代からずっと同棲してる男性がいて、その人が本命なんだって。表には出てこないけど、関係者の間では有名。公私ともにサポートしてきた彼がいなかったら今の池峰矢はいないってコメントが出てる、とか」
「なんだそれー!」
「意味わからんー!」
「相手はどんな人なの?」
「分からないみたい。一般人みたいよ」

宿題の手が止まって、思わずじっとそちらを見てしまう。
友達はケータイを色々操作して首を捻っている。

「こっちのブログにちょっと以前の特集記事の内容が書いてある。池峰矢のプロデューサーの話。大学時代の後輩か。どんなに世界を飛び回り、女性と関係を重ねても、彼が帰るのは、パートナーの元しかないだろう、だって」
「うわああああ」
「分からない!」

そこで、英語にどっぷりと漬かっていた脳みそが、じわりじわりとこちらの話に戻ってくる。

『そう、池、守です』

池峰矢。
池。
峰矢。
そして、男の恋人。

「池峰矢!」

ようやく記憶と話が繋がった。

『ああ、池峰矢』
『池って』
『そう、俺の家族』

「な、何!?」
「どうしたの、愛!?」

急に立ち上がった私を、友人達が驚いて見ている。
でもそんなの気にしていられなかった。

「ちょ、ちょっと見せて!」
「え、は、え?」
「その雑誌見せて!」

身を乗り出して手を伸ばすと、雑誌を持っていた友達が目を白黒させながら、でも雑誌を差し出してくれる。

「い、いいけど」

ひったくるようにして受け取って、開かれていたページを見る。
そこには気取った様子で椅子に座ったり立ったり、まるでモデルのようにポーズをとっている男性が映っていた。
好みの問題はあるけれど、誰が見ても整った顔というのは間違いない。

「………」

あの時の意地悪な顔より、ずっと柔和な表情で別人のようだが、やっぱり、あの人だった。
とても背の高い、迫力のある人。
顔は私の好みではないが、とても男っぽい格好いい人だった。

「どうしたの?」
「あ、いや、ううん。この人、恋人が、男、なんだ?」
「らしいけど」

目の前で、キスしていた。
家族だと言っていた。

「………」

呆然と雑誌を見つめていた私は、その後の英語の授業で散々な目にあった。



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